日本では、奈良・平安時代以来、中国宮廷風俗図が好まれ、桃山時代以降様々な図が描かれましたが、最も多いのが玄宗・楊貴妃関係の作品です。
奈良・平安時代に中国から持ち込まれた長恨歌1が特に好まれ、以降影響が続いたのではと思います。
能楽の扇に限って言えば、楊貴妃登場以前の逸話である蝶幸図2は一切描かれていません。
それにひきかえ、風流陣図は能楽扇を代表する図柄になっています。
なお、女性像は楊貴妃以外では西王母が単独で、主に神扇として描かれるだけです。
玄宗と楊貴妃だけの並笛図は能楽扇としては使われていませんが、大勢で演奏する奏楽図の一部として使われています。
画集『能の扇』、『古代能楽中啓扇図録』、その他中啓が掲載された図録や、自身が依頼を受け修復した中啓や写し、蒐集した扇面画など合わせて58図あります。
多い順に
1,花軍図 30点
2,放鳥図 6点
3,双六図 4点
4,奏楽図 2点
5,囲碁図 2点
その他、桃や牡丹を観る看牡丹図などがあります。
また、裏の図柄が分かっているのが36点あり、そのうち24点は花車図でした。
こうしてみれば、能楽師の方々にとって、また扇屋の絵師職人たちにとって、中国宮廷風俗図は大切に受け継がれてきた伝統の図柄だと思います。
少しでも多く後世に伝えねばと強く思いました。

花軍図(風流陣図)
玄宗と楊貴妃が女官たちを各両陣に分け、花枝をそれぞれ手にして対戦させた風流事。
さらに大勢の風流陣図はこちら。

並笛図
玄宗と楊貴妃が並んで一緒に笛を吹いている。
奏楽図はこちら。


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